東京高等裁判所 平成12年(ラ)2423号 決定
主文
一 原決定を取り消す。
二 原執行抗告を棄却する。
三 本件執行抗告及び原執行抗告の費用はいずれも抗告人の負担とする。
理由
一 本件抗告の趣旨は、原決定を取り消し、更に相当の裁判を求めるというものであり、その理由は、別紙「執行抗告の理由書」記載のとおりであり、要するに、客観的な価額に比して最低売却価額が著しく低廉であり、その決定に重大な誤りがあるのに、抗告人の原執行抗告を不適法なものとして却下した原決定は違法であると主張するものと解される。
二 そこで検討するに、抗告人は、別紙記載と同じ理由により原執行抗告をしたところ、原決定は、原執行抗告が民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものであるときに該当するとして、原執行抗告を却下したものであるが、原決定には「手続を不当に遅延させる」ことについての具体的な理由は記載されておらず、原裁判所が送付した本件執行抗告事件記録に添付された意見書には、抗告人が最低売却価額の決定に対して執行異議を申し立てたこと、及び本件不動産の最低売却価額の決定に違法の点が存しないことが記載されており、執行抗告事件の審理に参考となる資料の添付はない。そうすると、原裁判所は、抗告人が最低売却価額の決定に対して執行異議を申し立て、これが却下され、最低売却価額の決定に違法の点が存しないにもかかわらず、原執行抗告を提起したものとして、「手続を不当に遅延させる」ことを目的としてされたものと認定したものと推認される。
しかしながら、執行異議の申立てと執行抗告とは、対象となる行為を異にし、しかも本件では、原執行抗告においては異議申立てにおける理由と異なる理由を具体的に付加して不服申立てをしているものであるから、最低売却価額の決定に対して執行異議を申し立て、これが却下された後に、売却許可決定に対し最低売却価額の決定が違法であることを理由として執行抗告をしたことが「手続を不当に遅延させる」ことを目的としてされたものとは、直ちに認めることはできない。
ところで、抗告状又は抗告理由書記載の抗告理由において、当該事件に即した個別具体的な主張をせず、定型的な書式に基づいて形式的な主張をしているにすぎないような場合には、当該記載自体から執行抗告が理由のないことが明らかであるものとして、「手続を不当に遅延させる」ことを目的としてされたものということができるところ、原執行抗告の理由のうち、別紙記載2の理由がこれに該当するものとはいい難い。
そして、他に原執行抗告が民事執行の手続を不当に遅延させることを目的としてされたものであるときに該当することを認めるに足りる資料は存しない。
したがって、原執行抗告を却下した原決定は不相当であり、取消しを免れない。
三 上記のとおり原決定を取り消した場合において、当裁判所において、さらに進んで、原執行抗告についての判断をなし得ると解する。なぜならば、原決定を取り消して本件を原裁判所に差し戻しても、原裁判所は、原執行抗告が理由がない旨の意見を付して原執行抗告事件を抗告裁判所に送付するだけであることが明らかであるし、抗告人においても、当裁判所において直ちに原執行抗告に対する判断をすることを求めているものと解されるから、当裁判所が原執行抗告について直ちに判断しても当事者の審級の利益を奪うことにはならず、当事者にとって何ら不利益はなく、むしろ執行事件の迅速な処理に資するからである。
そこで、抗告人の申し立てた原執行抗告について判断するに、一件記録によれば、評価人は、平成一〇年九月一〇日、本件土地について、三筆を一体とした一画地とし、接面道路の状況について、南西側が幅員約一五ないし一八mの舗装県道(主要地方道島田・吉田線)に、南東側が幅員約六mの舗装市道にそれぞれ接面するものと把握し、価格資料として静岡県地価調査基準地「島田(県)―八」(島田市大柳南四四六番地所在)の調査基準日平成九年七月一日における標準価格六万九七〇〇円/m2を参考として近隣地価水準を把握し、本件土地の地域の標準画地の価格を八万八〇〇〇円/m2と査定して、土地の評価をし(法定地上権を考慮しない土地評価額合計七五七四万三〇〇〇円)、本件建物について、施工の程度を「優れる」として、再調達原価を三五八〇万円(付属建物につき八八〇万円)とし、耐用年数による減価修正及び観察減価修正(一〇%。付属建物につき二〇%)のほか市場性減価修正四〇%(付属建物につき三〇%)を施して、建物の評価をした(建物自体の評価額合計一〇八五万六〇〇〇円)こと、執行裁判所は、平成一〇年一二月一六日、土地建物を一括売却することとして、同評価(当初評価)に基づき最低売却価額を八六五九万九〇〇〇円と決定して、平成一一年中に期間入札売却を二回、特別売却を一回実施させたが、いずれも買受申出がなかったこと、そのため、執行裁判所は、平成一二年一月二一日、評価人に対し、評価額算出の過程を見直すため再評価命令をしたこと、評価人は、従前の評価を見直し、同年三月一日、本件土地について、接面道路の状況等について当初評価と同様に把握し、価格資料として当初評価と同一の静岡県地価調査基準地(「島田(県)―七」)の調査基準日平成一一年七月一日における標準価格六万九四〇〇円/m2を参考として近隣地価水準を把握するとともに、競売市場の特殊性を勘案して、本件土地の地域の標準画地の価格を七万二〇〇〇円/m2と査定して、土地の評価をし(法定地上権を考慮しない土地評価額合計五八七二万一〇〇〇円)、本件建物について、施工の程度、再調達原価等につき当初評価と同様に評価し、耐用年数による減価修正及び観察減価修正(二〇%。付属建物についても同じ)のほか市場性減価修正四五%(付属建物についても同じ)を施して、建物の評価をした(建物自体の評価額合計七六二万三〇〇〇円)こと、執行裁判所は、平成一二年七月二七日、同評価(再評価)に基づき最低売却価額を六六三六万円(法定地上権の成立を前提とした物件ごとの評価額につきいずれも一万円未満を切り上げた合計額)と決定して、期間入札による売却の実施を命令したこと、その期間入札において、静岡商工資金協同組合が九〇〇〇万円の最高価買受申出をした(他に買受申出はなかった。)ので、執行裁判所は、同年九月二六日、これに対し本件売却許可決定をしたこと、以上の事実が認められる。
抗告人は、本件土地と接道状況の異なる基準地を採用したことが不適当であると主張するが、他により適切な公示地、基準地が存することについての主張・立証がないから、その主張の事実だけで評価人が採用した基準地価格が本件土地の評価の参考にならないとは到底いえないし、本件土地の価格(競売市場の特殊性を勘案する前の価格)について基準地価格を相当程度上回る評価がされていることに照らすと、本件土地の接道状況等が基準地より優れていることが評価されているものと推認されるところであり、基準地価格を元に本件土地の評価をしたことが不相当であるとは認められない。
また、抗告人は、評価人の再評価を基に決定された本件最低売却額は近隣不動産価額に比較して著しく低額に過ぎ、社会通念に照らして容認することができないと主張するが、本件最低売却価額が近隣不動産価額(近隣取引事例)に比較して不相当に低額であると認め得る的確な資料は存しない。最低売却額が低額であることを理由にその決定に重大な誤りがあるというためには、単に近隣の取引事例等に比し最低売却価額が低額であるというだけでは足りず、評価の前提事実ないし評価の方法に誤りがあることによりその評価額が客観的な価額に比して著しく不当であり、社会通念上容認することができないものであることを要すると解されるところ、上記認定事実によれば、評価人は、本件建物について施工の程度が「優れる」ものとして評価した上で、再評価において、本件土地について、競売市場の特殊性を勘案して評価(二割近い減額評価をしたものと推認される。)し、本件建物について、当初評価の三〇%(ないし四〇%)から更に四五%の市場性減価修正を施したものであるが、不動産執行における売却は、そもそも一般(市場)の取引と異なり、競売市場を前提とするものであるから、その最低売却価額の決定の基礎となるべき不動産評価に当たっては、こうした特殊性を考慮せざるを得ないものである。そして、本件売却に際し決定された本件最低売却価額は、評価人の再評価に基づいて決定されたところ、この再評価は、それ以前に実施された期間入札及び特別売却においていずれも買受申出がなかったことなどから、従前の最低売却価額(当初評価)が高額にすぎたことが推認され、そのためそのまま売却を実施しても買受申出がされる見込みがないものとされたために発せられた再評価命令を受けてされたものである。そうすると、上記のとおり、競売市場修正減価を含む評価の見直しをしてされた再評価について、評価の手法、過程、内容に不相当、不合理な点があるものと直ちに認めることはできず、これをもって競売市場を前提とする不動産鑑定評価の基準に著しく反するということはできない。仮に、評価人の再評価に基づいて決定された本件最低売却価額が時価を反映した近隣不動産価額と比較して相当程度低額であるとしても、競売市場における特殊性に加え、従前の最低売却価額のままでは売却の見込みがなかったという特殊事情が加わっているのであり、最低売却価額が競売を前提とした買受申出の最低基準価格であることを考慮すれば、やむを得ないところであり、これをもって、本件最低売却価額の決定に重大な誤りがあるということはできない。
さらに、抗告人は、本件売却許可決定における事件番号が「平成一一年(ケ)第一三三号」と間違って表示されていることを問題とするが、この点については原執行抗告申立後の平成一二年一〇月一一日付けで「平成一〇年(ケ)第一三三号」に更正決定がされているところであり、いずれにしても、これをもって本件売却手続に重大な誤りがあるといえないことは明らかであるから、この点についての抗告人の主張は失当である。
したがって、抗告人の原執行抗告は理由がない。
四 よって、原決定を取り消して、原執行抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官杉山正己 裁判官山﨑まさよ 裁判官沼田寛)
別紙執行抗告の理由書<省略>